Macで描いたの?  ←前のコラムを読む次のコラムを読む→



日曜アーティストも含めて,
グラフィックアプリケーションを使ってイラストを描いたり,
アートワークのツールにしている人は,
かなりの数になるだろう。今回はクリエイター志望の方々へ
売り込みのテクニックと心構えを伝授しよう。



なによりも「積極性」が大事

旧盆の休みでガランとした東京の8月,ニューヨークから久しぶりに帰国した,絵本作家の高林麻里さん(*1)に会った。
彼女は,妻が担当するPR誌の表紙を飾るイラストレーションの仕事を定期的に依頼しているのだが,数年前に単身ニューヨークへ渡り,現在は,中国系アメリカ人の夫と子供の3人で暮らしている。
チャイナ・タウン特製のソーセージをおみやげに頂いて,向こうでの仕事のことを話していると,「日本人って根性がないってよく言われるわね。ハウスキーパーでもちょっと叱ると次の日から来なくなっちゃうし,アーティストの作品の売り込みも消極的な人が多いって出版社の人に言われるわ」という。
高林さんは日本にいる頃からとても積極的な人で,まだイラストレーターから絵本作家へ転身した頃,作品を持ち込んだ先で適当にあしらわれたり,作品への反応がなかったりしても挫けずにどんどん作品を描いて,何度も担当編集者のもとへ訪ねてゆき,その情熱と将来性を買われて,少しづつ仕事をモノにするようになったのである。その時にポートフォリオを持って回った会社は,10社や20社ではなく,3ケタの数に及んだという(*2)。
今では日本からの仕事以外にも,アメリカの出版社の絵本やイラストレーションの仕事も数多く手がけており,ときどきインターネット経由で夫のキャムからも電子メールが届いたりするが,ニューヨークでもクリエイターやアーティストはMacintoshを使っている人が多いそうだ(*3)。二人はまだ本格的に仕事のツールとしてMacintoshを活用してはいないようだが,そのうちに表現手段のひとつとして,使いこなすようになることだろう。

売り込みのポイント

仕事柄,私のところにもイラストレーターの方々からの売り込みがある。カラーで印刷したダイレクトメールを郵送してくれたり,インターネットやniftyでメールを送ってくれたり,電話で連絡を頂いて直接作品を拝見したり(これが一番多い),その方法はさまざまだ。
方法はどれでも構わないのだが,ひとつ覚えておいて欲しいのは,あくまでも見せてもらうのは作品そのものであって,どんなアプリケーションを使っているかということは,評価対象ではないということである。
Macintoshを使っていなくても,WindowsでCorelDrawを使おうが,SGIでAliasを使おうが,本人が一番使いやすい環境で作品ができていればいいし,極端な話,制作にコンピュータを一切使ってなくても問題などなく,手描きの作品の味付けや仕上げに,一部コンピュータを使うというやり方でも一向に構わないのだ。
たまにこの辺を勘違いされている方がいて,ソフトウエアのエフェクトとサンプルアートワークの寄せ集めだけでつくられた作品を延々と見せられることがあるが,これでは評価のしようがない。
Strata Proのピンクカバで有名な駄場寛氏,LivePictureによるリアルなアートワークを展開する仲雷太氏,それにPainterで独自の世界を構築する吉井宏氏や渡辺優氏など,日本のデジタルアート界を代表する彼らの作品は,あくまでのその作品の世界やキャラクターを評価されているのであって,アプリケーションやハードの環境で評価をすることは,絶対にないのである。
また,3Dやマルチメディアオーサリング用のアプリケーションでつくったものを変換もせずにデータごと持ってきてこられるのも困りものだ。
3D作品はPICTにするかカラープリンタの打ち出しに,動画はQuickTimeムービーに,マルチメディア作品はプレイヤー形式にして持ち込むのが最低限の常識である(*4)。
最後に,これが一番大事なことなのだが,一度持ち込んで反応がなかったからといって,それっきりあきらめてはいけない。次に会う機会に向け,作品を描きためて再度チャレンジしたり,暑中見舞いやクリスマスカード,年賀状の時期,またはそれ以外の季節でも折を見てポストカードや,データ付電子メールを送るなどの努力が必要である。公募展で入賞したらその結果やイベントを知らせるのもいいだろう。短文であっても近況報告などを添えると,さらに効果的だ。

プロになる心構え

売り込みの甲斐あって作品が採用されても,それでプロとして生計が立てられる保証ができたわけではない。以下のことをきちんと守らなければ,そのうち仕事は来なくなると思ったほうがいい。
ひとつは締め切りを必ず守ること。もうひとつは依頼された仕事の関して,きちんと内容を理解した上でとりかかるということである。
突然の不幸とか急病などのやむをえない場合は別として,締め切りを守らずに遊びにいってしまうなどもってのほかであるし,ゴールデンリトリバーのイラストをと犬種まで依頼したのに,うちのワンちゃんが可愛いからと,勝手にシエットランドシープドックのイラストを描いてしまうなどというのは,プロとして失格である。
それから,「Macintoshがクラッシュしてデータが消失して…」とか,「ハードディスクが起動しなくなって描けません」というのも,甘い。データを消失してしまったら自分の責任ですぐに描き直し,ハードディスクは緊急用に外付けのものを常に用意しておくぐらいの覚悟は必要である(*5)。
第一,締め切り直前にギリギリで仕上がるというやり方は,Macintoshを画材やツールとして使う場合には感心できない。ハード/ソフトのトラブルによるリスクを見込んで,システムがコケても間に合うくらいのスケジュールを組むべきだ。
努力なくして,決してプロにはなれない。たとえ512MBのメモリを積んだGenesis MPを持っていたとしても。
(MacUser1996年11月号に掲載)


(*1) 著書に「ニューヨークおいしい物語」(東京書籍)がある。最近,ボストンの出版社から「Rush hour」という絵本を出版した

(*2) 「売り込みは足でする」というのが基本原則であり,何度も同じ出版社や担当者に,あたらしい作品を見せるということは,自分の作品ストックを増やすという意味もあるのだ

(*3) ニューヨークのクリエイターたちは,最初から作品を詳細に見てもらえるケースは少なく,ポートフォリオを預けて,作品が気に入れば連絡をするという方法が一般的だ。これを「drop in」と呼ぶらしい

(*4) ポストスクリプト系でも,Illustratorに比べてFreeHandを持っているところは少ない。Canvasも同様なので注意が必要である

(*5) システムの安定性を重要視するクリエイターのMacintoshは,OSやアプリケーションのバージョンアップがあっても,すぐには入れ替えない。別のハードディスクやマシンで安定するまで検証し,問題がなくなった段階で移行する

●この原稿について(本人からのコメント)●

なんだかエラそうなことを書いている(笑)が,私自身上記のようなことがキチンとできている訳ではな。ただ、こうなるべく努力はしております。ハイ。
決して原稿の遅いライターの方やイラストレータの方を揶揄して訳ではないので、その辺は誤解なきよう…
(1997/2/2)
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